ねこさいんの足跡

にゃーんの翻訳

宇都宮美術館「視覚の共振・勝井三雄」展が理系・博物好きには最高だった件

[f:id:catcoswavist:20190504015751j:plain
今週のお題「特大ゴールデンウィークSP」

 ゴールデンウィークも最大で残り三日となった。私は、のんべんだらりと帰省して過ごしていたが、連休の昼はどこも混んでいるだろうし、私は夜行性なので勉強も捗らない。かといって何もしなくても疲れは溜まるので、折角の地方を楽しもうと美術館に行くことにした。

書物と虹色の洗礼

 JR宇都宮駅からバスで数十分、小高くなっている閑静な森の中に宇都宮美術館はある。凝灰岩の一種、大谷石でできた直線的な建物、雨に濡れた野の花や新緑と今回の企画展「視覚の共振・勝井三雄」展のヴィヴィットな幾何学模様は三つ巴のようでいい組み合わせだ。
受付を済ませチケットを受け取ると、プロムナード・ギャラリーと称して開幕直後から巨大年表、そして書物の嵐。ゲーテが色彩について論じた本やら、パントン社の色見本をはじめとし、文学やら一見無関係そうな自然科学?の本の入ったケースが所狭しと並んでいる。私は一瞬、順路を逆走しているのかと思ったほどのクライマックスみであった。開場時間内にとても処理できない圧倒的な情報量と活字は明らかにカロリーたっぷりだと判断し、本展へ向かう。
 入った先には天井から吊るされた虹色のカーテンのような布。なんだこれ初めて見た。思わず見入ってしまった。見上げると上下で対称になるようグラデーションになっている。近くで見るとそれぞれの色の可視光線の波長が書いてある。ほかにも服、ポスター、オブジェなど様々なものがすべからく虹色だ。虹色は否応なく目立つが、一昔前のパワーポイントのような雑多さを感じさせずスタイリッシュ、モードな雰囲気でまとまっていることは匠の技を感じる。また、一言に虹色といっても、明度や彩度を微妙に変えた色を使っていたため、それらを一堂に集めてもびしっとまとまるところもすごいと思った。

宇宙と生命の幾何学

 私が今回の展示で一番驚いたのは、勝井が自然科学を高度にモチーフに仕立て上げた点である。今まで、デザインと現代美術の展示といわれても、せいぜいフォントやら、ポップで意味はよくわからない幾何学模様程度のイメージしかなかったが、この展示ではそれを覆すようだった。おびただしい量のポスターの奥に、勝井の作品を動画化しているコーナーがあったのだが、そこにはらせん状の立体がぐるぐる回りながら巻貝のような形、魚を正面から見たような形、アンモナイトのような形などに変化していく。勝井は立教大学に赴き、原子炉や鮭のDNAなどを取材したらしく、そこからインスピレーションを受けたらしい。光から原子の極限と宇宙のサイクルを直観し、螺旋及び渦巻きからライフサイクル、DNA、星の回転運動まで総括してしまったらしい。私たちはしばしば、頭の中の世界を描こうと壮大な設計をしても、表現できず夢幻のまま終わってしまうが、それを勝井は絶えず流動する形と色の概念として具象化した。

図鑑の影の立役者

もう一つのコーナーにはこれまた大量の書籍、デザイン、勝井の手掛けた博物展の抜粋が飾られている。勝井は教科書や図鑑のデザインも手掛けていて、表紙のデザインだけでなく、グラフや図をどのようにわかりやすく表現するかに取り組んだことも展示していた。展示では人体の模式図やら分子の図、合成回路の図解、地図に始まり百科事典の小項目の分類・色分けまで扱われていた。私は就学前から図鑑を非常に好み、「絵柄がきれいだ」という理由でその後も自然科学に進んでしまったほどなので、このコーナーは最高だった。なんなら住みたい。科学雑誌が好きな人、図鑑が好きな人にとっては天国である。あれだ、ドラえもんの秘密道具の「絵本に入れる靴」だ。博物展のコーナーでは、水をモチーフに数を扱った「水を誌す」と、100冊しかない希少本?で原始地球から今の地球までたどる「土の記憶」があった。手袋をつけてゴンドワナ大陸にひとっとび。これをロマンといわずなんというのだろう。


(注意)
美術館は郊外にあり、バスは本数が少ない。帰りは、美術館の営業時間内なら館内の待合スペースに美術関連書籍がたくさんあり、それを見るのもまた一興。行きはまあ頑張って調べてくれ。宇都宮駅周辺はまあまあ時間つぶせるし。
館内では、通話・撮影でなくとも一切のスマホ・携帯電話の使用が禁じられているので、メモ魔の方は鉛筆とメモを持っていくといい。私は図録を買った。

宇都宮美術館 http://u-moa.jp/exhibition/exhibition2.html